今、ベルギー、オランダでデザインビルドによるコンペが増えつつある。昨年勝利したナイメーヘンのプロジェクトもそうである。デザインビルドは日本では設計施工一括方式として知られていて、設計者と施工者の間のやり取りが不明瞭なことや、コストのチェックが難しい、発注者がそれぞれを評価しにくいなどのマイナス面から限られたものにしか見られない。しかし、今ベルギー、オランダではデザインビルドが増えてきている。(橋梁に関してしか僕は把握していないが)規模の大小に関わらずである。なぜなのか。
答えは簡単。公共事業に関わる人のモラルを信じること、デザインビルドによってデザインとコストのバランスのよい良質な構造物をつくること、またそれらをしっかりジャッジ出来ることが発注者の責任であることを信じていること、さらに一般市民に対して発注者も一緒になって説明を行う意志があること、なのである。つまり簡単にいうとおのおの職能を信じる、また職能に伴う責任を果たすという姿勢が基本にあるのである。マイナス面を考えて足踏みするより、プラス面を考えて先に進むのである。オランダ語圏らしい気質でもある。
もちろんデザインビルドも全く問題がないわけではないが、様々なプロセスを試行錯誤している。そのためコンペの方式も発注者との対話のプロセスを含むものや1年以上の長期に渡るものなど実験的なプロセスも多い。実際参加する方もまだほとんどがこの方式にうまく対応できていない。この方式の利点は、意匠、構造の一貫したデザインはもちろん、施工プロセス、コストまで含めてトータルでバランスのとれた最善案を提案出来ることである。しかし、言葉では簡単だが、このことは非常に難しい。なぜならすべてのプロセスと一貫して見渡せる人材が必要だからである。
ナイメーヘンでの競合チームと僕たちの事務所の案の違いもそこにあったようだ。他のチームも建築家、エンジニア、施工、ランドスケープアーキテクトからなる複合的なチームであったのだが、意匠と構造のバランス、コスト、施工性などどこかに偏りが生じていたようだ。しかも競合はローカルの建築家というわけではなく、ビッグネームであった。クライアントの話によると、初めの数ヶ月で勝敗が歴然としていたそうだ。僕は中で関わっていたので、この違いがどこから来ているのかよくわかる。設計のプロセスの違いなのである。建築家やデザイナーが考えたかたちを、構造家が解析するというプロセスでは難しいのだと思う。協働がうまくいっても、コスト面でも問題が往々にして起こる。ものの成り立ちを熟知する人間が、力学的に無理がなく、かつ美しくコンテクストを考えた上でのかたちにまとめ上げることが重要なのである。そのための一つの方法が、ローランネイの考える、建築家が場所性や歴史といった条件を整理し、構造家がかたちを決定するという方法なのである。感覚的な世界と力学による絶対的な世界を横断できる人が必要である。施工性やコストもかたちをどう創るかという問題に直結するし、施工者とのやり取りをしながら、意匠、構造、経済性、施工性など総合的にバランスのよいかたちにまとめあげることが出来たとき、デザインビルドのメリットが最大限に生かされ、しかも一般市民に対しても理にかなった説明が可能になるのである。そして何より重要なのがこのバランスをしっかり評価できる目を発注者が持っていること、そのための対話を惜しまないことが重要なのだと思う。
橋梁の世界で、デザインビルドの利点を生かした合理的かつデザイン性に優れた提案が出来る事務所はまだほとんどないといっていいと思う。だからこれから数年この事務所は多くのプロジェクトを獲得できるだろう。このプロセスを間近で体感できていることは、貴重な体験だと感じている。
とこんなことを書いたのは、ヨーロッパも決して景気がいいわけではなく日本同様不況なのだが、このトピックが日本の建設業界と全く対照的であったからだ。建設業界に限らないのだと思うが、マイナス面やリスクばかり気にしていると、大切なものを見失っていく気がする。
ヨーロッパも決してすべてがそうではないのだが、プラスを考えトライアルをし、職能を信じる場所が少ないがある。予算が厳しいから「とにかく安くもしくはつくらない」と「後に残せる良質なものを最小限の価格で」の違いだと思う。インフラは生活の基盤だし、公共空間が生み出す豊かさを知っていると、とにかく安く、つくらないという選択以外を考えるようになるのだと思う。また一端保留にして、予算を十分に確保する時間をかけるという選択も生まれるのである。