昨日、アントワープに行ってきた。ご存じファッションの街。
よく考えたら僕とベルギーの接点はラフシモンズに始まる。ちょうど僕が大学生の頃アントワープ6とか王立アカデミー出身のデザイナーが世界で脚光を浴び始めた。以来僕はこの国のファッションデザインが好きなのである。非常にラインのきれいな洋服が多く、デザインのバリエーション、実験的な洋服も多い。ちょっとしたディテールにひねりがきいているのも好きなところではある。縫い合わせが変わっていたり、襟の形を微妙に変化させていたり。毎回この街でそんな洋服をチョイスする。とはいえ、小さな街、東京ほど何でも揃うわけではなく、こまめに通ってやっと気に入るものに出会う感じ。
アントワープは、いつも行くと立ち寄る場所は決まっている。モード美術館、prince、roius、copyrightの4カ所は必ず行く。モード美術館はDelvauxの歴史に関する展示。ここの展示は密度が濃く、空間演出自体は案外雑だけれど内容はしっかりとしていておもしろいものが多い。老舗ブランドの180年の歴史を楽しんだ。特に、おもしろかったのは時代ごとのバックが展示してあるところで、その時代の流れが見て取れて楽しい。写真(下)は初期(1950年頃)のもので、僕はこれが一番きれいだと思った。
今回は、ブーラ劇場にも立ち寄る。18世紀いわゆる新古典主義の建物。普遍的なお手本を求め、近代化前のギリシャ・ローマ建築への回帰を目指した流れの中でできた建物である。形式を重視した建物であるため表層的というか装飾的な部分はあるけれども、バロック建築ほどコッテリしておらず、この時代の建築で好きなものは多い。デートの演出にはぴったりなのである。モダニズムが失った部分なのだと思う。この建物はダンスや演劇が中心の劇場。2階にDe foyerというカフェがあってここも雰囲気がとってもいい。いつか劇を見た後ここで食事をしたい。http://www.defoyer.be/
偶然アントワープ環状線反対運動に出くわす。都市部での高架橋に対する反対運動。郊外にトンネルを作って迂回させるルートを対案として提示することで、政府に訴えかけているよう。その住民投票を翌日に行うようだ。こういった運動は好感を持てるし、こういったことに関心があるのはいいことだと思う。ショッピングモール内の一角にこの運動のPRスペースがあってそこでいろいろな資料を見せてくれたり、解説をしてくれたりする。僕も中で説明をしてもらった。ただ、この運動どうも政治的な雰囲気が漂う。現案に対して対案を比較する構図。現案のデメリットに対して対案のメリットを示す。その対案を提示しているコンサルタント、建築家、建設会社の思惑が見え隠れしている。しかもトンネル案の試算金額がどうも怪しい。単純に街にとって何がよいかを考えるということに加えてどうもそれ以外の利害関係が関係している気がする。説明を聞いていて感じたし、選挙運動のようなグラフィックからも感じられる。アントワープの象徴、ブラボー像が巨人の手の代わりに高架橋を投げているTシャツとか。(わかりやすいけれど、僕はあまり好きになれない手法ではある。)アンチを唱えることは容易なのである。むしろ重要なのは対話をしていくことで、アンチでは無い気がする。フラマン政府に対する反対でもあるのだが、僕は見ていてフラマン政府は芸術文化デザインに関して理解があるほうだと思うし、この国の公共デザインの優れた部分はフラマン語圏に多いのはこのことがあるように思う。フラマン政府なりの主張もあるはずだ。この部分を欠いた投票というのはどうもフェアじゃない。この反対運動、詳細な経緯はわかりかねるが、僕は単純にどっちがよくてどっちが悪いということでは無いように思う。僕の事務所の関わるプロジェクトなこともあり、今後を見守っていきたい。