2009/10/21

ローラン・ネイ講演会、共有されること


先日東京、熊本で行われたローラン・ネイ講演会。東京の様子は佐々木葉先生の研究室のブログにも書いていただいているのでこちらも見てもらえればと思います。http://yohlab.exblog.jp/

ここでは僕なりに考えていたことを少し書こうと思います。講演会は昨年と異なっている部分が大きく一つあります。今ヨーロッパで建築を中心に盛んなパラメトリックデザインを使ったプロジェクトが含まれていたことです。(熊本では時間の関係で紹介できませんでした)「かたち」を変数を使って定義したり、ある種のアルゴリズムを使って形態を生成させる手法です。これらはそのまま構造解析にも有効で、デザインと構造解析がシームレスに繋がっていく可能性が生まれようとしています。非常に魅力的で新しい可能性を含んではいますが、危険な部分もあります。今回日本への渡航中、ローランとも話していたのですが、あくまでツールの一つとして有効に使わないと、単なる奇抜な形を生み出す手法に成り下がってしまう可能性をはらんでいます。

彼はあくまでも力学をベースにした合理的な「かたち」を追求します。その過程において新しい技術や手法が、これまでと違った地平を見せてくれると考えていると思います。つまり見たこともない「かたち」に興味があるのではなく、現代のツールを使った今の時代における表現でありながら、合理的かつ容易に建設可能な「かたち」を求めているのだと思います。特に橋梁や広場、駅など公共の場所でのデザインでは、非常に明確で論理的な説明が必要となりますし、もちろん税金を使う以上コストも重要となります。そのため、この事務所のプロジェクトは、意匠、構造、施工すべてのプロセスを論理的に説明可能でなくてはならず、意匠的に新しい考え方、構造的に新しい考え方、新しい施工方法といった局所的な革新を中心に据えるのではなく、全体でのバランスを保ちつつ新しい地平を探していきます。このバランス感覚をトータルでみるために、エンジニアのみではなく、建築家、3Dモデラー、ドラフトマンなど設計プロセスの各セクションで必要となる人材を事務所で抱えているのです。また、プロセスを共有し合意していくことに主眼を置いて、プロジェクトのストーリーが組み立てられています。(それがゆえ、講演会の後に多くの方の共感を得られるのだと思います。)特に長大橋のような巨大なスケール規模のプロジェクトでは、多くの人が関わる同時に、多くの人に対しての説明責任も求められます。特にヨーロッパは住民運動が盛んなため、この辺りはかなりシビアです。

どのプロジェクトも単に奇抜な、新しい「かたち」ではないのです。ベースにあるのは力学の法則からくる「かたち」があり、それが時にクノッケ歩道橋やアントワープ北口歩道橋のような形で変化していき、新たな方向が生まれてくるのだと思います。大きな突然変異のジャンプではなく、過去からの連続の中から生まれる漸次的な変異なのだと思います。

いま世界中で奇抜な、みたこともかたちを生み出しつつあるパラメトリックデザイン。新しい空間概念はそこにあるのかも知れないですが、同時に僕たちの仕事は日常をつくる仕事でもあります。そのため共有されること、このことがこの事務所の核にあるのだと思います。「かたち」の思考と共有されるためのプロセス。そんなことが今回の日本で僕の中でしっくりとはまりました。共有されること共有すること、あらためてこのことが僕の中に戻ってきたことが、非常に大きな収穫でした。